ATR法 セオリー

序文
浸透深さ ATR法においてエバネッセント波がサンプル中にもぐり込む深さを近似する時に使 われる有効な関係式が浸透深さDp の式で定義されています。浸透深さというのは、 クリスタル とサンプルの接触面からの距離で次の様に定義されます。

全反射(ATR)法は、多目的に使える強力な赤外測定法の1つです。ATRで分析す る場合、サンプルは通常、前処理をまったく必要としないか、ほんの少しの前処理で 測定でき るので、ATR法を用いれば赤外スペクトルを迅速に得ることができます。 透過法では厚すぎるサンプルを、ATR法を使ってルーチンで分析することができま す。またATRは、物質の表面だけの情報を見たい場合にも有効です。

理論
この内部反射の現象は 1959 年に初めて報告されました。いくつかの条件が整えば、 高屈折率の赤外透過材料でできたプリズム(ATRクリスタル)に入射した赤外光は 内部で全反射することが観測されました。サンプルがエネルギーを吸収する赤外領域で、エバネッセント波とサンプルが相互に作用して、スペクトルが得られます。
エバネッセント波の強度がATRクリスタル表面からの距離とともに指数関数的に減 衰するという挙動により、ATR が強力な技法の1つとなっています。その距離がミク ロンオーダ ーなので、ATRでは通常サンプルの厚さに関係なく、厚いサンプル、吸収の強いサンプルを測定することができます。
内部反射の起こる条件は、入射角θが臨界角θc を超えることです。臨界角は、サ ンプルとATRクリスタルとの屈折率の関数で次の様に表されます。

θc= sin-1(n2/n1)

ここで、n1 はATRクリスタルの屈折率 n2 はサンプルの屈折率です。
臨界角を 小さくするために、屈折率の大きい材質 がATR クリスタルとして選ばれます。


浸透深さ 

ATR法においてエバネッセント波がサンプル中にもぐり込む深さを近似する時に使われる有効な関係式が浸透深さDp の式で定義されています。浸透深さというのは、クリスタル とサンプルの接触面からの距離で次の様に定義されます。

Dp = λ / 2π n1 [sin2Θ- (n2/n1)2]1/2

ここで、
λは赤外光の波長
n1 はATRクリスタルの屈折率 θは入射角
n2 はサンプルの屈折率を表します。

 

 

 

 

実効厚さ
もう1つの有効な関係式は、実効厚さ(Effective Pathlength: EPL)を表す式として知られているものです。EPLによりATRスペクトルと透過ス ペクトルから予測される吸収強度のおおまかな比較ができます。透過法により得られるスペクトルでは、光路長はサンプルの厚さ そのもの であり、これが吸収強度に比例します。 ATRでは実効厚さは次の様に表されます。

EPL =浸透深さ X 反射回数

このEPLはまた吸収強度に比例します。浸透深さか反射回数を増やすことにより、スペクトルの吸収強度が増します。 右下の光の入り込み深さと波数依存性の図はサンプルの屈折率を一般的な有機物の屈折率1.5 として、クリスタル、入射角を変えた場 合の サンプルへの入り込み深さ(赤外吸収強度)にどのような効果があるかを示しています。

 

クリスタル材質

P.11 に示した材質は、ATRクリスタル材質として通常使われているものです。
ATR クリスタルの材質にはダ イヤモンド、ZnSe、
ゲルマニウム、シリコンなどがあり、 サンプルの材質、
形状、必要な透過領域、屈折率、pH により選択をする必要
があります。
お客様のアプリケーションにどの材質が適しているかは
当社迄お問い 合わせ下さい。